東京高等裁判所 昭和63年(て)238号 決定 1988年12月01日
主文
本件は、逃亡犯罪人を引き渡すことができる場合に該当する。
理由
H・Gは、別紙一覧表記載のとおり、昭和六三年(一九八八年)七月五日から同月二二日までの間、前後五回にわたり、フロリダ州南部地区において、A・G・Cほか二名から従業員年金計画金合計一八三、五〇〇ドルをキャピタルバンクの預金口座等に業務上預かり保管中、ほしいままに自己の用途に費消するために、コマースバンクの自己の経営するフイナンシャル・アンド・インヴエストメント・プラニング・インコーポレーテッド名義の当座預金口座に入金して横領した後、米国国外に逃亡した逃亡犯罪人であり、フロリダ州南部地区アメリカ合衆国地方裁判所裁判官から逮捕令状が発せられている者であるとして、昭和六三年一〇月六日アメリカ合衆国から日本国に対し、日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約(以下、単に条約という)九条一項の規定に基づいて仮拘禁の請求があり、逃亡犯罪人引渡法(以下、単に法という)二五条一項による仮拘禁許可状により同月八日成田空港において拘束された者であるが、同年一一月一六日アメリカ合衆国から日本国に対し、条約八条に基づいてその引渡しの請求があり、同月一八日東京高等検察庁検察官から当裁判所に対し、法八条により、右逃亡犯罪人引渡しについての審査の請求がされた。
そこで、一件記録を調査し、当裁判所の審問の結果をも併せ検討すると、本件引渡請求が、条約及び法の定める手続きに合致していること、アメリカ合衆国から引渡しを求められている逃亡犯罪人H・Gは、現在東京拘置所に拘禁され、かつ、当裁判所の審問期日に出頭したH・Gと同一人物であること、同人が右引渡請求にかかる犯罪行為を行ったことを疑うに足りる相当な理由があり、右行為は、アメリカ合衆国の法令によれば、同国法典一八編六六四条に該当し五年以下の拘禁刑もしくは一万ドル以下の罰金又はその併科にあたる罪であって、条約二条一項、同付表一七号に規定する犯罪であること、これが日本国で行なわれた場合、日本国の法令により業務上横領罪として一〇年以下の懲役に処すべき罪に該当し、右犯罪にかかる裁判が日本国の裁判所において行われたとした場合には、日本国の法令によって刑罰を科し、これを執行することができるものであることが認められる。
その他、本件引渡請求が、条約及び法令に規定する引渡しを制限する事由に該当するような事情は認められない。
よって、本件は逃亡犯罪人を引渡すことができる場合に該当すると認められるので、法一〇条一項三号により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官時國康夫 裁判官神作良二 裁判官山田公一)